子宮内膜ポリープと外来子宮鏡手術

子宮内膜ポリープと外来子宮鏡手術

このケースレポートの内容は手技書ではなく、著者である医師の経験に基づく一例です。実施する医療行為への適合性を確認した後、手技を行うことを推奨します。実際の手技は医療従事者の専門的な臨床判断と知識と責任に基づき行う必要があります。
よって、KARL STORZ SE & Co. KG、エム・シー・メディカル株式会社では手技の実施に対しての責任を負いかねます。

升田 博隆 先生

医療法人 清和会
HMレディースクリニック銀座
院長

<略歴>

平成 9 年3月 慶應義塾大学医学部卒業
平成 9 年5月 慶應義塾大学病院産婦人科
平成10年6月 けいゆう病院産婦人科
平成12年6月 芳賀赤十字病院産婦人科
平成13年6月 慶應義塾大学医学部産婦人科学教室
平成18年6月 日本鋼管病院産婦人科
平成21年8月 豪州 モナッシュ大学 ポスドク研究員
平成24年5月 慶應義塾大学医学部産婦人科学教室
令和 2 年6月 医療法人 清和会 HMレディースクリニック銀座 院長

はじめに

本稿では、不妊診療における子宮内膜ポリープ(内膜ポリープ)についての概要を解説した後に、患者を入院させることなく外来で行う子宮鏡下子宮内膜ポリープ切除手術について説明する。

1.子宮内膜ポリープ

子宮内膜ポリープ(内膜ポリープ)は内膜腺と間質からなる子宮内腔への突出物であり、症状としては不正出血や過多月経等が挙げられるが、経腟超音波による子宮内腔のスクリーニングで偶然発見される無症状のものも多い。検査方法や対象となる集団によって保有率にはさまざまな報告があるが、内膜ポリープの保有率は生殖年齢では24%にまでのぼるとの報告があり(1)、加齢とともに有病率は上昇する疾患である(2)。

確定診断には、切除検体の病理診断が必要であるが、症状もなく悪性を疑がわない場合には、定期的な子宮内膜細胞診とともに経過観察も可能である。しかし、無症状でも不妊の一因となっている可能性もあり挙児希望患者では看過できない疾患であるとともに、挙児希望年齢の高齢化に伴い不妊診療において遭遇することが多い疾患のひとつである。

そこで問題となるのが、不妊診療における無症状の内膜ポリープの取り扱いである。ポリープの大きさや位置に加えて、年齢や不妊期間、不妊治療歴といった患者背景も含めた総合的な評価が必要となるが、内膜ポリープの不妊への影響に関しては様々な報告がある。

ポリープの大きさや位置により不妊への影響が異なるといった物理的な胚着床阻害を裏付ける報告(3)-(5)がある一方で、子宮内膜ポリープの存在自体が内膜の胚受容能力を低下させているという報告もあり(6)-(9)、内膜ポリープの不妊への影響についてはコンセンサスが得られていない。そのため、実際の臨床の場においても、最終的な治療方針について迷うことも少なくない。

しかし、最近では子宮鏡器械の技術革新による子宮鏡手術の低侵襲化と安全性の向上により、サイズや場所にかかわらず切除が推奨されるとした報告も増えている(1),(10)-(13)。また、ポリープ切除が推奨されるようになったもう一つの理由として、欧米において外来子宮鏡手術(office hysteroscopy)が普及したことで、内膜ポリープ切除がより容易にできるようになった(14)ことも挙げられる。

2.外来子宮内膜ポリープ切除術

当院では、細径硬性子宮鏡を使用した外来における子宮鏡下子宮内膜ポリープ切除術を開始している。以下、当院で行っている外来子宮鏡手術について、手術の決定から詳細な手順までを説明する。

【手術決定まで】

事前に子宮鏡検査を施行し、子宮頸管の径や屈曲状況およびポリープの大きさ・形状・位置を確認する。子宮体部細胞診の施行による悪性疾患の否定をした上で、外来子宮鏡手術の適応を検討し、適応と判断した際は、手術時の子宮穿孔や大量出血等の緊急時に備え、一般的な術前検査(胸部レントゲン・心電図・血液検査・尿検査)を施行する。手術は月経終了直後に予定する。

【手術当日】

1.患者の希望により来院時に鎮痛剤(内服か坐薬)を使用。

👉当院では患者の不安を取る意味でも鎮痛剤の使用は積極的に行っている。また、術中は迷走神経反射にも注意が必要である。

2.内診台と周辺の準備をする。

👉当院では通常の外来診療に使用する内診台を使用し手術を施行しているが、子宮鏡検査より多くの灌流液を使用するため、内診台周囲への灌流液飛散に対してビニール袋や吸水シート等を使用した防水処理を行っている。

3.超音波により子宮内膜ポリープの存在を確認。

👉内膜ポリープは自然に消失する場合がある。

4.子宮鏡下手術に用いる器具のセッティングを行い、その間に患者の血圧・脈拍を測定。

👉無麻酔で行うため手術時間は可能な限り短縮する必要があり、子宮鏡自体の組み立てや光源・灌流液の接続等のセッティングを事前に整えることが重要。血圧・脈拍の測定は、術中も適宜施行する。

5.腟内の消毒。(腟鏡を使用)

腟鏡やマルチン単鈎鉗子等を使用せず、子宮鏡を腟入口部に挿入し灌流開始。

👉腟鏡の使用により、子宮鏡の可動域が制限されることや子宮の屈曲が強くなることで子宮鏡の操作が困難となる場合がある(図1)。腟内を灌流液で拡張させるため、用手的な外陰部の圧迫により腟口を閉鎖し灌流液の漏れを減少させる。

図1 子宮鏡と腟鏡の関係

腟鏡の使用により、子宮鏡の可動域が制限されること(①)や子宮の屈曲が強くなること(②)で子宮鏡の操作が困難となる場合がある。腟鏡不使用の場合は、子宮鏡の可動域が広がり子宮の屈曲についても自由度が高い(③)。

6.腟内を観察しながら子宮鏡を内子宮口へ進める。

👉子宮鏡が内子宮口に入ったら、用手的な膣口閉鎖を解除する。

7.子宮頸管の方向を考慮しながら、子宮鏡を子宮内腔へ挿入。

👉必要に応じて子宮鏡の外筒を回転させ子宮腔に到達しやすくする(図2)。 また、子宮の前屈が強い場合には下腹部を用手的に圧迫し前屈を軽減する。本手術では頸管拡張を行わないので、子宮内腔への到達までが最も難しく危険を伴うステップと考えられる。 斜視鏡である利点を活かし頸管の方向を見失わない様に注意して挿入する。患者の疼痛も確認しながら、子宮穿孔しないように十分な注意が必要となる。経腹超音波を施行しながらの子宮鏡挿入はより安全であると考えられる。

図2-1 頸管通過時の子宮鏡操作(1)

子宮の前屈により子宮鏡が先に進まない場合は、下腹部の用手的圧迫による前屈の軽減とともに、子宮鏡の外筒の傾斜を頸管に沿わせるように外筒を180度回転させ(②)頸管通過を試みる

図2-2 頸管通過時の子宮鏡操作(2)

子宮が後屈の場合の子宮鏡操作では、頸管の方向と子宮鏡の進行方向を一致させるよう進める。

8.子宮内腔に到達したら、腔内を全体的に観察し治療対象のポリープを確認する。

👉子宮腔内へ到達すると同時に外筒で削られた内子宮口付近の内膜により視野が妨害され、子宮内腔到達の判断が鈍ることがあるので十分に注意する。

9.鋏鉗子や把持鉗子を使用してポリープを茎部から切除する。

👉子宮底部から突出するポリープでも、ポリープ本体を鉗子で圧迫することで茎部を露出し切除することが可能である(図3)

図3 子宮底部の内膜ポリープ切除

子宮底部から突出するポリープに対しては、ポリープ本体を鉗子で圧迫する(矢印)ことで茎部を露出し切除する。

10.把持鉗子を使用し切除したポリープを回収する。

👉回収した組織は病理検査へ提出。

11.手術終了後、血圧・脈拍を測定。感染予防として内服抗生剤を処方。

👉患者の疼痛や嘔気等の程度に応じてしばらく安静とし、問題ないことを確認した上で帰宅を許可する。

本手術は、外来において無麻酔で行う比較的短時間の手術であり、我々にも患者にもメリットは大きいが、初めから簡単にできるリスクの少ない手術ではない。

①器械操作と手術手順の慣熟、②手術のリスク・合併症の熟知と対策、③撤退(手術中断)への勇気、の3つは非常に大切である。

①と②については、手術室で麻酔下に行う手術において器械を使用し、操作方法や手順に十分に慣れることが望ましい。③ については、手術のリスク説明に加え、安全面を優先し手術を中断する可能性についても十分に説明し、インフォームド・コンセントを得る必要がある。そして、手術適応についても有茎性で単発のポリープから開始し、自信とともに徐々に適応を広げていくことをお勧めしたい。

なお、保険診療としての位置付けは地域によって異なるため、保険請求については保証されるものではないこともご留意いただきたい。

1. Kalampokas T, et al. Endometrial polyps and their relationship in the pregnancy rates of patients undergoing intrauterine insemination.
Clin Exp Obstet Gynecol. 2012;39(3):299-302.
2. Valle RF. Therapeutic hysteroscopy in infertility. Int J Fertil.1984;29(3):143-148.
3. Isikoglu M, et al. Endometrial polyps smaller than 1.5 cm do not affect ICSI outcome. Reprod Biomed Online. 2006;12(2):199-204.
4. Lass A, et al. The effect of endometrial polyps on outcomes of in vitro fertilization (IVF) cycles. J Assist Reprod Genet. 1999;16(8):410-415.
5. Yanaihara A, et al. Location of endometrial polyp and pregnancy rate in infertility patients. Fertil Steril. 2008;90(1):180-182.
6. Ben-Nagi J, et al. The effect of hysteroscopic polypectomy on the concentrations of endometrial implantation factors in uterine
flushings. Reprod Biomed Online. 2009;19(5):737-744.
7. Bozkurt M, et al. Hysteroscopic polypectomy decreases NF-kappaB1 expression in the mid-secretory endometrium of women with
endometrial polyp. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2015;189:96-100.
8. Elbehery MM, et al. Insulin-like growth factor binding protein-1 and glycodelin levels in uterine flushing before and after hysteroscopic
polypectomy. Clin Lab. 2011;57(11-12):953-957.
9. Rackow BW, et al. Endometrial polyps affect uterine receptivity. Fertil Steril. 2011;95(8):2690-2692.
10. Kodaman PH. Hysteroscopic polypectomy for women undergoing IVF treatment: when is it necessary? Curr Opin Obstet Gynecol.
2016;28(3):184-190.
11. Perez-Medina T, et al. Endometrial polyps and their implication in the pregnancy rates of patients undergoing intrauterine insemination: a
prospective, randomized study. Hum Reprod. 2005;20(6):1632-1635.
12. Karakus SS, et al. Reproductive outcomes following hysteroscopic resection of endometrial polyps of different location, number and
size in patients with infertility. J Obstet Gynaecol. 2016;36(3):395-398.
13. Zhu H, et al. Evaluation of transvaginal sonography in detecting endometrial polyps and the pregnancy outcome following
hysteroscopic polypectomy in infertile women. Exp Ther Med. 2016;12(2):1196-1200.
14. Di Spiezio Sardo A, et al. Hysteroscopy and treatment of uterine polyps. Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol. 2015;29(7):908-919.